全てはこの男の一言からはじまった。
「レグナード行こ!」
特に断る理由もなかったので
「魔法使いか僧侶ならいけます!」と
返事をしたところ
僧侶はすでに準備がOKな方がいたので
魔法使いで準備を進める私。
普段、魔法使いをしないので
まずは、埃のかぶった炎ベルトを取り出し、
スキル振り直しや宝珠も設定を
ガチャガチャと済ませて10分ほど
パーティーメンバーをお待たせして準備完了。
ここで私は違和感に気がつく。
なんだかこのパーティー汗臭いのだ。
恐る恐るメンバーの職業を確認すると...
_人人人人人人人人人人人_
> バトバト僧侶魔法 <
 ̄Y^Y^Y^Y^YY^Y^Y^Y^YY ̄
そう。このバトルマスター達が
目の眩むほどの熱気を放っていた原因だったのだ!!
レグナードは、繰り出される攻撃が強いので、
基本的にはパラ魔構成と呼ばれる職業編成が普通である。
パラディンが熾烈な攻撃を全て受け止め、
魔法使いは遠距離からなにも考えずに
ひたすらメラゾーマを連発する。
という攻略が鉄板なのだ。
「こ、この構成でいけますかね?」
戦々恐々と確認するがこの男はこう返す。
「いけるいける!余裕っしょ!」
「むしろきむりん天地じゃなくて大丈夫!?」
・・・これは私が間違っているのだろうか!!??
ここまで堂々と受け答えされると
一般常識の根本からねじ曲げられそうでもある。
「天地だとまた振り直しに時間がかかるのでこのままで...」
この構成だと魔法使いはお荷物になる可能性が高かったが
正直このときは一ミリも勝つつもりがなかったので
(というか勝てるビジョンが見えなかった)
一度現実を見せた方がいいよな...
と思い、レグナード討伐へ向かった。
魔法使いは文字通り魔法を使うプロなのだが
魔力かくせいで呪文の威力を上げたり、
早詠みの杖で呪文の詠唱速度を短縮したり、
暴走魔法陣を敷いたりしないと火力が出ない。
さらに言うと打たれ弱いので、前述したパラディンのような
クッション役がいないとすぐ敵にやられてしまう。
まさにエアコンの効いた部屋で
カルピス、かき氷がないと本気が出せない
現代っ子さながらのモヤシなのである。
私は定石どおり
魔力かくせい、早詠みの杖、暴走魔法陣...と
環境を整え、さーーメラゾーマ唱えちゃうぞ~?
と思ったその矢先。
レグナードがじゃれついてきて
HPは一瞬で0に。
↑魔法使いの運命なのである。
!!!!!
これは予想どおり厳しい戦いになりそうだ...
そんな私には目もくれず
バトルマスター達はレグナードに天下無双を
果敢に叩き込んでいる。
腕をちぎれんばかりに振り回す姿は
見ているだけで暑苦しい。
まるで夏休みの炎天下の中、公園をかけまわる
キッズのようだった。
だが、この構成においては
私より討伐に貢献しているのは明白だ。
なぜなら、彼らは火力を出すために必要な下準備が
ほぼないのである。
一度敵にやられてしまうと
バフ(いい効果)をすべて失ってしまうのだが
彼らはそれがない。
強化するとしても
すてみを使用してこうげき力を上げる手間だけで
済むのだ。
私は、こうしちゃいられんと
今装備している火力重視のものから
ブレス耐性が付与される生存重視の
カテドラル装備へ変えることにした。
そこらをかけまわる
キッズに足並みを揃えるには
タンクトップに短パンが最強なのである。
のんきに戦場で着替えを済ませたあたりで
レグナードの名前が黄色に変わった。
つまり、敵の残りHPが半分を切った瞬間だった。
一同「おおおっ!」
制限時間も潤沢ではないが、
十分残されていた中でHPを削ることができたので
一筋の光明が見えた気がした。
だが、レグナードはHPが黄色になったところからが
本番とも言われている。
ヤツは、殴られ続けることで
『竜の咆哮』という自己強化しつつ
プレーヤー4人の動きを一定時間止めるという
奥の手を使い始めるからだ。
↑容赦なく動きを止められ、しゅびりょくも0になると言うオマケつき。
早速、竜の咆哮がパーティーを直撃。
瞬く間に2人がレグナードの餌食となり
みんなの心をへし折りにかかる。
ぁあ やっぱり討伐は夢物語か・・・
だが、蘇生と攻撃をあきらめずに繰り返す。
呪文を繰り出すためのMPも何度切れただろうか。
そのたびにエルフの飲み薬→ようせいの霊薬→けんじゃのせいすい→まほうのせいすいと
もったいない精神からくるグレードダウンに
フラストレーションを覚えながらも
合間合間でせかいじゅのしずくやせかいじゅの葉を使い、
僧侶のサポートなどもする。
(というかあとで見直してみたら後半はほとんどサポートだった・・・)
その甲斐もあってか
いつのまにかレグナードのHPが赤(残りHPが25%)に!!
いけるか!?!?
だがこの時点で残り時間も8分強。
ここまでくると時間ともったいない精神との戦いである。
(私にとっては)
残り7分、6分と刻一刻と時間が迫ってくる。
敵も負けじとブレス攻撃や竜の咆哮で妨害をしてくる。
まるでサッカーで1点勝ち越しているチームが
パス回しをしてアディショナルタイムを凌ごうとする光景を見ているようだ。
そんな騎士道精神に背くことをされては
ウチのバトマスチームも黙ってはいない。
目には目を、歯には歯をと言わんばかりに
ハンムラビ教典を全力で体現するようなフィジカルプレー(天下無双)を
レグナードへお見舞いする。
無法VS無法の泥試合が数分続き、
ついにこの瞬間が訪れた。
『常闇の竜レグナードに 全身全霊斬り!』
決まる大技。倒れる巨体。
そう。ついに
この変態構成でレグナードを倒したのだ!
「うおおおおおおお!!」
解ける緊張感とわきあがる高揚感。
そしておそらく私は
このパーティ内で一番、この戦闘のクライマックスを目に焼き付けていただろう。
なぜなら
敵の封印攻撃を食らって手も足も出なかったのである。
(画面を見ているしかできなかった・・・)
そんな微妙な感情と達成感が入り混じる中、
勝利を分かち合ったメンバーと記念撮影をして
戦場を後にした。
↑魔法使いで参加してゴメンナサイと言いたくなる内容の戦闘でした。
「あばよ、レグナード。
もう半年は会いたくないぜ!!」
私は心の中で思った。
というか変態構成に二度と遭遇しませんように!!!
と、祈りをこめた。
おそらくこの男
以外はそう思っていることだろう。
まあでも
たまにならいいかな!たまになら!!
いや、うん・・・たま・・・になら・・・
もはや達成感は消えうせ、
残ったのは微妙な感情のみであった。